アシモフ先生が書くと歴史的にギリシャ帝国とローマ帝国がテーマになってローマ帝国興亡史をベースにしたファウンデーションシリーズになりますが、これを中国文学を専攻した日本人が書くとどうなるでしょう?
その答えが田中芳紀の銀河英雄伝説です。
熊本が誇るベストセラー作家で、尾田栄一郎がいなかったら、この人が戦後最大の熊本人作家でしょう。
さて、内容ですがヒトラーを模した皇帝が興したゴールデンバウム王朝の若き野心家ラインハルトと、その周囲の熱き貴族層と、自由惑星同盟の天才軍人にして歴史家志望のヤン・ウェイリーと、その周囲のあぶれ者たちの未曽有の戦いを描いた作品です。
二人を通じ、田中芳紀が描き出した宇宙戦争の様々な戦術と古代戦略のギミックがとても見事です。
また、最低の民主主義と最高の専制政治の対比を副題とし、古代ギリシャ、古代中国、そして戦前、戦中、戦後の日本を見る時、考えさせるものがある作品です。
トリューニヒトなどは、極めて戦後日本人的政治家の悪しき雛形で、ギリシャポリスのデマゴーク、戦前の大政翼賛会のプロパガンダ首相に通じるものがあり、ヤン・ウェイリーへの心情移入が加速されます。
ところで、フォーク准将の扱いは少しどうなのかなあと感じないではないです。
確かに戦前の暴走はエリート将校の暴走から始まったので、その歴史の実例からはそういう風に見るしかないわけですが、しかし、ナポレオンやナチスのように大勝利を収めた軍隊を率いているわけではないのですし、あの戦略をラインハルトが取るのも、フォーク准将が引っかかるのもなんだかなあと思います。
それにしても、全く、最後の予想外でのフォーク准将の登場は…。
と、さて、色々感想を述べましたが、現代のライトノベルを読み、歴史物が嫌いなあなたにはおそらくこの作品は向かないでしょう。
SFの舞台で大河やりてーなー。
というあなたにお勧めです。
特に三国志的展開が好きなら、フェザーンの動向も見逃せません。
さて、この作品の結論は結論として、私の感想は最低の民主主義の方が、最高の専制政治よりよいのです。
なぜならば、ラインハルトはいくら零落した家柄だからとしても、貴族だからです。
そこがこの作品の美点であり、汚点でもあります。
あなた、天皇家に連なる苗字を持ってますか? 私は持っていないです。
…民主主義万歳!