純資産の部の表示
4.貸借対照表は、資産の部、負債の部、負債の部及び純資産の部に区分し、純資産の部は、株主資本と株主資本以外の各項目(第7項)に区分する。
5.株主資本は、資本金、資本剰余金及び利益剰余金に区分する。
6.個別貸借対照表上、資本剰余金及び利益剰余金は、さらに次のとおりに区分する。
(1)資本剰余金は、資本準備金及び資本準備金以外の資本剰余金(以下「その他資本剰余金」という。)に区分する。
(2)利益剰余金は、利益準備金及び利益準備金以外の利益剰余金(以下「その他利益剰余金」という。)に区分し、その他利益剰余金のうち、任意積立金のように、株主総会または取締役会の決議に基づき設定される項目については、その内容示す科目をもって表示し、それ以外については繰越利益剰余金にて表示する。
7.株主資本以外の各項目は次の区分とする。
(1)個別貸借貸借表上、評価・換算差額等(第8項参照)及び新株予約権に区分する。
(2)連結貸借対照表上、評価・換算差額等(第8項参照)、新株予約権及び非支配株主持分に区分する。
なお、連結貸借対照表において、連結子会社の個別貸借対照表上、純資産の部に直接計上されている評価・換算差額等は、持分比率に基づき親会社持分割合と非支配株主持分割合に按分し、親会社持分割合は当該区分において記載し、非支配株主持分割合は非支配株主持分に含めて記載する。
8.評価・換算差額等には、その他有価証券評価差額金や繰延ヘッジ損益のように、資産又は負債は時価をもって貸借対照表価額としていない場合の当該評価差額や、為替換算調整勘定、退職給付に係る調整累計額等が含まれる。当該評価・換算差額等は、その他有価証券評価差額金、繰延ヘッジ損益、退職給付に係る調整累計額等その内容を示す科目をもって表示する。
なお、当該評価・換算差額等については、これらに係る繰延税金資産又は繰延税金負債の額を控除した金額を記載することになる。
背景
(平成17年会計基準の公表)
13.これまで貸借対照表は、資産の部、負債の部及び資本の部に区分するものとされ、さらに資本の部は会計上、株主の払込資本と利益の留保額(留保利益)に区分する考え方が反映されてきた。
14.平成11年1月に企業会計審議会から公表された「金融商品に係る会計基準」(平成18年8月に企業会計基準10号「金融商品に係る会計基準」として改正されている。)において、その他有価証券に係る評価差額は、損益計算書を経由せず資本の部に直接計上する考え方が導入された。同様に、平成11年10月に企業会計審議会から公表された改訂「外貨建取引等会計処理基準」において、在外子会社等の財務諸表の換算によって生じた換算差額(為替換算調整勘定)も連結貸借対照表の資本の部んび直接計上することとされていた。
15.平成9年6月に企業会計審議会から公表された改訂「連結財務諸表原則」(以下「連結原則」という。)において、連結貸借対照表には、資産の部、負債の部、少数株主持分及び資本の部を設けるものとされ、子会社の資本のうち親会社に帰属しないものは少数株主持分として、負債の部の次に区分して記載するものとされていた。これは、親会社説の考え方による連結原則の下において、資本の部は、原則として、親会社の株主に帰属するものを示すこと、少数株主持分は、負債の部と資本の部の中間に独立の項目として表示することとされていた。
貸借対照表の区分
18.平成17年会計基準の公表まで、貸借対照表上で区分されてきた資産、負債及び資本の定義は必ずしも明示されてはいないが、そこでいう資本については、一般に、財務諸表を報告する主体の所有者(株式会社の場合には株主)に帰属するものと理解されており、また、連結貸借対照表における資本に関しては、連結財務諸表を親会社の財務諸表の延長線上に位置づけて、親会社の株主に帰属するもののみを反映させることとされてきた。
19.また、資産は、一般に、過去の取引又は事象の結果として、財務諸表を報告する主体が支配している経済的資源、負債は、一般に、過去の取引又は事象の結果として、報告主体の資産やサービス等の経済的資源を放棄したり引渡したりする義務という特徴をそれぞれ有すると考えられている。このような理解を踏まえて、返済義務のないものは負債の部に記載しないこととする取扱いが、連結財務諸表を中心に行われてきた(第14項及び15項参照)。
20.このように、資本は報告主体の所有者に帰属するもの、負債は返済義務のあるものとそれぞれ明確にした上で貸借対照表の貸方項目を区分する場合、資本や負債に該当しない項目が生ずることがある。この場合には、独立した中間的な区分を設けることが考えられるが、中間区分自体の性格や中間区分自体の性格や中間区分と損益計算との関係などを巡る問題が指摘されている。また、国際的な会計基準においては、中間区分を解消する動きがみられる。
21.このような状況に鑑み、平成17年会計基準では、まず、貸借対照表上、資産性又は負債性をもつものを資産の部又は負債の部に記載することとし、それらに該当しないものは資産と負債との差額として「純資産の部」に記載することとした(第4項参照)。この結果、報告主体の支払能力などの財政状態をより適切に表示することが可能となるものと考えられる。
なお、「純資産の部」という表記に対しては、平成17年会計基準の公開草案に対するコメントにおいて、「株主持分の部」とすべきという意見があった。しかしながら、持分には、単なる差額概念以上の意味が含まれる可能性があり、資産と負債との差額を表すには、純資産と表記することが内容をより適切に示すものと考えられる。
また、平成17年会計基準の公開草案に対するコメントの中には、資本と純資産とが相違することに対する懸念も見られた。これに対しては、以前であれば、株主に帰属する資本が差額として純資産となるように資産及び負債が取り扱われてきたが、その他有価証券評価差額金を資本の部に直接計上する考え方(第14項参照)が導入されて以降、株主に帰属する資本と、資産と負債との差額である純資産とは、既に異なっているという見方がある。平成17年会計基準では、資本と利益の連繋を重視し、資本については、株主に帰属するものであることを明確にすることとした。また、前項で示したように資産や負債を明確にすれば、これらの差額がそのまま資本となる保証はない。このため、貸借対照表の区分において、資本とは必ずしも同じとはならない資産と負債との単なる差額を適切に示すように、これまでの「資本の部」という表記を「純資産の部」に代えることとした。
22.前項までの考え方に基づき、平成17年会計基準においては、新株予約権や、非支配株主持分を純資産の部に区分して記載することとした。
(1)新株予約権
新株予約権は、将来、権利行使され払込資本となる可能性がある一方、失効して払込資本とはならない可能性もある。このように、発行者側の新株予約権は、権利行使の有無が確定するまでの間、その性格が確定しないことから、これまで、仮勘定として負債の部に計上することとされていた。しかし、新株予約権は、返済義務のある負債ではなく、負債の部に表示することは適当ではないため、純資産の部に記載することとした。
(2)非支配株主持分
非支配株主持分は、子会社資本のうち親会に帰属していない部分であり、返済義務のある負債でもなく、また、連結財務諸表における親会社株主に帰属するものでもないため、これまで、負債の部と資本の部の中間に独立の項目として表示することとされていた。しかし、平成17年会計基準では、独立した中間項目を設けないこととし、純資産の部に記載することとした。
23.さらに、平成17年会計基準では、貸借対照表上、これまで損益計算の観点から資産又は負債として繰り延べられてきた項目についても、資産性又は負債性を有しない項目については、純資産の部に記載することが適当と考えた。このような項目には、ヘッジ会計の原則的な処理方法における繰延ヘッジ損益(ヘッジ対象に係る損益が認識されるまで繰り延べられるヘッジ手段に係る損益又は時価評価差額)が該当する(第8項参照)。