70.複数の資産が一体となって独立したキャッシュ・フローを生み出す場合には、減損の兆候の把握、減損損失の認識の判定及び減損損失の測定に際して、合理的な範囲で資産のグルーピングを行う必要がある。様々な事業を営む企業における資産のグルーピングの方法を一義的に示すことは困難であり、実務的には管理会計上の区分や投資の意思決定(資産の処分や事業の廃止に関する意思決定を含む。)を行う際の単位等を考慮してグルーピングの方法を定めることになると考えられる。本適用指針では、資産のグルーピングを行う手順を例示することにより、実務的な指針として役立てることを考えている。
(1)例示において、本適用指針では、企業は、資産と対応して継続的に収支の把握がなされている単位を識別し、グルーピングの単位を決定する基礎とするものとしている。一般に、管理会計上の区分は、事業別、製品別、地域別などの区分を基礎にして行われていると考えられるが、継続的に修士の把握がなされている単位は、予算や業績評価の単位より小さい場合もある。収支の把握は、必ずしも現金基準に基づくものではなく、発生基準に基づく損益の把握でもよい。
また、賃貸ビルや小売用店舗のように、資産の利用とキャッシュ・フローが直接的に関連付けられやすい資産については、当該資産ごとに継続的な収支の把握が行われている場合が多いと考えられる。
なお、事業の種類や業態によっては、当該資産から生ずるキャッシュ・イン・フローが他の資産から生ずるキャッシュ・イン・フローと相互補完的であるため、管理会計上も合理的な内部振替価額を用いて収入の把握を行うことが困難な場合がある。また、当該資産に係るキャッシュ・フローに見積もり要素が極めて多いため、管理会計上、資産ごと又は複数の資産をまとめた単位では継続的な収支の把握に異議を見出せない場合がある。このような場合、企業の継続的な収支は、当該管理会計上の目的や効果から合理性を有する者に限られることに留意する必要がある。
さらに、本適用指針では、資産のグルーピングの単位を決定する基礎は、原則として、小さくとも物理的な1つの資産になると考えている。これは、固定資産の減損会計は、資産を対象とするため、1つの資産において、継続的に収支の把握がなされている単位が複数存在する場合でも、1つの資産を細分化して減損処理の対象とすることは適切ではないと考えられることによる。
ただし、物理的な1つの資産でも仕様が異なる等のため、複数からなる資産と考えられる場合もある。これには、商業ビルにおいて仕様が異ならなくとも、自社利用部分と外部賃貸部分とが長期継続的に区分されるような場合も含めることができるものと考えられている。
(2)継続的に収支の把握が成されているグルーピングの単位を決定する基礎が、特定の製品やサービスと関連していると想定される場合でも、複数のグルーピングの単位を決定する基礎が生み出す製品やサービスの性質、市場などに類似性等があり(これには、販売方法として契約に基づく継続的な一括販売などを含む。)、それらから生ずるキャッシュ・イン・フローが相互に補完的な影響を及ぼし合っている場合には、当該単位を切り離したときに他の単位から生ずるキャッシュ・イン・フローに大きな影響を及ぼすことがある。このような場合には、当該単位を切り離すことにより、企業の実態を適切に反映しない結果となることが考えられるため、これらの複数の単位をグルーピングすることが適当である。
なお、グルーピングの単位を決定する基礎において内部取引が存在し、合理的な内部振替価額(例えば、企業が外部からの収入価額に基づく適切な内部振替価額)により管理会計上、キャッシュ・イン・フローを擬制している場合、他の単位から生ずるキャッシュ・イン・フローと相互補完的でなければ、当該単位を切り離したときに他の単位から生ずるキャッシュ・イン・フローに大きな影響を及ぼすものとしては取り扱わず、他の単位とグルーピングを行わないこととなる。
また、稀ではあるが、法規制によって企業に製品やサービスの供給義務が課されており、このため、販売価格の認可制や広い安全管理義務があり、拡張撤退が自由にできないような場合には、供給義務が課されている資産又は複数の資産を切り離したときに他の単位から生ずるキャッシュ・イン・フローに大きな影響を及ぼすものと考えられるため、当該資産から生ずるキャッシュ・イン・フローには相互補完的な影響があることに該当すると考えられる。
71.資産のグルーピングは、実務的には、投資の意思決定を行う際の単位等を考慮してグルーピングの方法を定めることになると考えられている。それには、資産の処分や事業の廃止に関する意思決定を含む。このため、資産の処分や事業の廃止の意思決定を行い、その代替的な投資も予定されていない場合における資産が他の資産又は資産グループのキャッシュフローから概ね独立したキャッシュ・フローを生み出す最小の単位に該当すると考えられる。
なお資産の処分や事業の廃止に関する意思決定は、取締役会等において行われるほか、社内規定等に基づき、他に決定権限が委譲されえている場合には、当該決定権限に従った権限者の承認により行われる。
また、実務上の負担を考慮し、重要性の乏しい資産は、他の資産又は資産グループのキャッシュ・フローから概ね独立したキャッシュ・フローを生み出す最小の単位として取り扱う必要はなく、これまでの使用状況等に鑑みて、資産グループに含めて取り扱うことがことができると考えられる。
72.遊休状態は、企業活動にほとんど使用されていない状態であって、過去の利用実態や将来の用途の定めには関係が無い現在の状態である。また、このような状態にある資産が遊休資産である。このうち、将来のしようが見込まれていない遊休資産は、当該資産を切り離しても他の資産又は資産グループの使用にほとんど影響を与えないと考えられるため、処分の意思決定を行った資産の廃止の意思決定を行った事業に係る資産について、代替的な投資が予定されていない場合などと同様に、重要なものについては、他の資産又は資産グループのキャッシュ・フローから独立したキャッシュ・フローを生み出す最小の単位として取り扱うことが適当である。
なお、資産の処分や事業の廃止に関する意思決定を行った資産と同様に、将来の使用が見込まれていない遊休資産のうち、重要性の乏しいものは、これまでの使用状況等に鑑みて、資産グループに含めて取り扱うことができると考えられる。
また、処分の意思表示を行った重要な資産や、廃止の意思決定を行った事業に係る重要な資産、将来の使用が見込まれていない重要な遊休資産は、これら同士の将来キャッシュ・フローを合算して減損損失を認識するかどうかの判定を行ったり、減損損失を測定したりしないことに留意する。
73.業種や規模にかかわりなく、企業には複数の資産又は資産グループが存在すると考えられる。また、連結財務諸表における資産グループは、どんなに大きくとも、事業の種類別セグメント情報における開示対象セグメントの基礎となる事業区分よりも大きくなることはないと考えられる。
74.当期に行われた資産のグルーピングは、事実関係が変化した場合(例えば、事業の再編成による管理会計上の区分の変更、主要な資産の処分、事業の種類別セグメント情報におけるセグメンテーションの方法等の変更など)を除き、翌期以降の会計期間においても同様に行う。
75.連結財務諸表は、企業集団に属する親会社及び子会社が作成した個別財務諸表を基礎として作成されるため、個別財務諸表上は、資産のグルーピングが当該企業を超えて他の企業の全部又は一部とされることはなく、また、連結財務諸表においいても、原則として、個別財務諸表における資産のグルーピングが用いられる。しかしながら、管理会計上の区分や投資の意思決定を行う単位の設定等が複数の連結会社(在外子会社を含む。)を対象に行われており、連結財務諸表において、他の資産又は資産グループのキャッシュ・フローから概ね独立したキャッシュ・フローを生み出す最小の単位が、各連結会社の個別財務諸表における資産のグルーピングと異なる場合には、連結財務諸表において資産のグルーピングの単位が見直されることとなる。
このように、連結財務諸表における資産のグルーピングの単位の見直しは必ず行わなければならないものではなく、また、管理会計上の区分や投資の意思決定を行う単位の設定等が複数の連結会社を対象に行われている場合には、見直されるわけではない。また、複数の資産が一体となって独立したキャッシュ・フローを生み出す場合に必要となる資産のグルーピングの考え方から、当該見直しは、連結上、固定資産が計上される連結会社が対象であり、持ち分法が適用されている非連結子会社や関連会社は含まれないことに留意する必要がある。
なお、連結の見地から資産のグルーピングの単位が見直された場合には、個別財務諸表における減損損失が、連結上、修正されることとなる。すなわち、連結財務諸表において計上される減損損失が、個別財務諸表における減損損失の合計額を下回る場合には、連結上、当該差額を消去し、上回る場合には、連結上、当該差額を追加計上することとなる。
共用資産の取り扱い
129.一般に、共用資産の帳簿価額を合理的な基準で各資産又は資産グループに配分することによりは困難であると考えられるため、共用資産を含む、より大きな単位又は共用資産自体に減損の兆候がある場合の共用資産に係る減損損失を認識するかどうかの判定及び減損損失の測定は、共用資産が関連する複数の資産又は資産グループに共用資産を加えた、より大きな単位で行うこととされている。
この際、共用資産を加えることによって算定される減損損失が、共用資産の帳簿価額と正味売却価額の差額を超過することが明らかな場合には、当該超過額を各資産又は資産グループに合理的な基準については、資産グループについて認識された減損損失が、帳簿価額に基づく比例配分の方法のほか、各構成資産の時価を考慮した配分等の合理的と認められる場合には、当該方法によることができるとされていることから、この方法に準じて、と各資産又は資産グループの回収可能価額が容易に把握できる場合には、当該超過額を各資産又は資産グループの帳簿価額と回収可能価額の差額の比率等により配分することが考えられる。
130.共用資産とは、複数の資産又は資産グループの将来キャッシュ・フローの生成に寄与する資産をいい、本社の建物や試験研究施設などの全社的な資産のみならず、複数の資産又は資産グループに係る福利厚生施設や開発、動力、修繕、運搬等を行う設備なども該当する。共用資産の帳簿価額を当該共用資産に関連する各資産又は資産グループに合理的に配分することができる場合には、共用資産の帳簿価額を各資産又は資産グループに配分する方法を採用することができるが、それは、共用資産であっても、各資産又は資産グループの将来キャッシュ・フローの生成に密接に関連し、例えば、動力設備における合理的に見込まれる総消費量の比率など、その寄与する度合との間に強い相関関係を持つ合理的な配賦基準が存在する場合が該当すると考えられる。このような場合には、共用資産の帳簿価格を当該共用資産に関連する各資産又は資産グループに当該合理的な配賦基準で配分することができる。
なお、共用資産の帳簿価格を各資産又は資産グループに配分する方法を採用する場合があり、また、当該企業の類似の資産又は資産グループにおいては、同じ方法を採用する必要がある。