企業会計原則と関係諸法令との調整に関する連続意見書

連続意見書第三 有形固定資産の減価償却について

企業会計原則と減価償却

一、企業会計原則の規定

減価償却に関する企業会計原則の基本的立場は、貸借対照表原則五の2項に左のごとく示されている。
「資産の取得原価は、資産の種類に応じた費用配分の原則によって、各事業年度に配分しなければならない。有形固定資産は、その取得原価を当該固定資産及び繰延資産は、有償取得の対価を一定の償却方法によって各事業年度に配分しなければならない。」
これによって明らかなように、減価償却は、費用配分の原則に基づいて有形固定資産の取得原価をその耐用期間における各事業年度に配分することである。

二、減価償却と損益計算

減価償却の最も重要な目的は、適正な費用配分を行うことによって、毎期の損益計算を正確ならしめることである。このためには、減価償却は所定の減価償却計算を正確ならしめることである。このためには、減価償却は所定の減価償却方法に従い、計画的、規則的に実施されねばならない。利益に及ぼす影響を顧慮して減価償却費を任意に増減することは、右に述べた正規の減価償却に反するとともに、損益計算をゆがめるものであり、是認しえないところである。
正規の減価償却の手続によって各事業年度に配分された減価償却は、更に原価計算によって製品原価と期間原価とに分類される。製品原価に分類された減価償却費は製品単位ごとに集計され、結局は売上原価と期末棚卸資産原価とに二分して把握される。このうち売上原価に含まれる部分は、期間原価として処理される減価償却費とともに当期の収益に対応せしめられるが、期末棚卸資産原価に含まれる部分は翌期に繰り延べられ、翌期以降の収益に対応せしめられることになる。

四、固定資産の取得原価と残存価額

減価償却は、原則として、固定資産の取得原価を耐用期間の各事業年度に配分することであるから、取得原価の決定は、減価償却にとって重要な意味を有する。固定資産の取得にはさまざまの場合があり、それぞれに応じて取得原価の計算も異なる。
1 購入
固定資産を購入によって取得した場合には、購入代金に買入手数料、運送費、荷役費、据付費、試運転費等の付随費用を加えて取得原価とする。但し、正当な理由がある場合には、付随費用の一部又は全部を加算しない額をもって取得原価とすることができる。
購入に際して値引又は割戻を受けたときには、これを購入代金から控除する。
2 時価建設
固定資産を自家建設した場合には、適正な原価計算基準に従って製造原価を計算し、これに基づいて取得原価を計算する。建設に要する借入資本の利子で稼働前の期間に属するものは、これを取得原価に算入することができる。
3 現物出資
株式を発行しその対価として固定資産を受け入れた場合には、出資者に対して交付された株式の発行価額をもって取得原価とする。
4 交換
自己所有の固定資産と交換に固定資産を取得した場合には、交換に供された自己資産の適正な簿価をもって取得原価とする。
自己所有の株式ないし社債等と固定資産を交換した場合には、当該有価証券の時価又は適正な簿価をもって取得原価とする。
5 贈与
固定資産を贈与された場合には、時価等を基準として公正に評価した額をもって取得原価とする。
固定資産の取得原価から耐用年数到来時におけるその残存価額を控除した額が、各期間にわたって配分されるべき減価償却総額である。残存価額は、固定資産の耐用年数到来時において予想される当該資産の売却価格又は利用価格である。この場合、解体、撤去、処分等のために費用を要するときには、これを売却価格又は利用価格から控除した額をもって残存価額とする。
なお、固定資産の取得時以後において著しい貨幣価値の変動があった場合および会社更生、合併等の場合には、当該固定資産の再評価を行ない、これによって減価償却の適正化を図ることが認められることがある。

六、減価償却計算法

1 期間を配分基準とする方法
期間を配分基準とする減価償却計算の根本問題は、耐用年数の決定に存するが、これが決定されている場合、各事業年度の減価償却費を計算する方法として次のごときものがある。
定額法
定率法
級数法
消却基金法
消却基金法に類似する方法に年金法がある。年金法においては、減価償却引当累計は減価償却総額に一致するが、減価償却費には利子が算入されるから減価償却費の累計は利子部分だけ減価償却総額を超過する。このように年金法は利子を原価に算入する方法であるため、一般の企業においては適用されていない。しかしながら、利子を原価に算入することが法令等によって認められている公益企業においては、この方法を用いることが適当であると考えられる。
2 生産高を配分基準とする方法
生産高(利用高)を配分基準とする方法には生産高比例法がある。この方法は、前述のように、減価が主として固定資産の利用に比例して発生することを前提とするが、このほか、当該固定資産の総利用可能量が物質的に確定できることもこの方法適用のための条件である。かかる制限があるため、生産高比例法は、期間を配分基準とする方法と異なりその適用さるべき固定資産の範囲が狭く、工業用設備、航空機、自動車等に限られている。
なお、生産高比例法に類似する方法に減耗償却がある。減耗償却は、減耗性資産に対して適用される方法である。減耗性資産は、鉱山業における埋蔵資源あるいは林業における山林のように、採取されるにつれて漸次減耗し枯渇する天然資源を表す資産であり、その全体としての用役をもって生産に役立つものでなく、採取されるに応じてその実体が部分的に製品化されるものである。したがって、減耗償却は減価償却とは異なる別個の費用配分法であるが、手続き的には生産高比例法と同じである。

七、取替法

同種の物品が多数集まって、一つの全体を構成し、老朽品の部分的取替を繰り返すことにより全体が維持されるような固定資産に対しては、取替法を適用することができる。取替法は、減価償却法とは全く異なり、減価償却の代りに部分的取替に要する取替費用を収益的支出として処理する方法である。取替法の適用が認められる資産は取替資産と呼ばれ、軌条、信号機、送電線、需要者用ガス計量器、工具器具等がその例である。