資産除去債務に関する会計基準(企業会計基準18号)

用語の定義

3.本会計基準における用語の定義は、次のとおりとする。
(1)「資産除去債務」とは、有形固定資産の取得、建設、開発又は通常の使用によって生じ、当該有形固定資産の除去に関して法令又は契約で要求される法律上の義務及びそれに準ずるものをいう。この場合の法律上の義務及びそれに準ずるものには、有形固定資産を除去する義務のほか、有形固定資産に使用されている有害物質等を法律等の要求による特別の方法で除去するという義務も含まれる。
(2)有形固定資産の「除去」とは、有形固定資産を用役提供から除外することをいう。(一時的に除外する場合を除く。)除去の具体的な態様としては、売却、廃棄、リサイクルその他の方法による処分等が含まれるが、転用や用途変更は含まれない。
また、当該有形固定資産が遊休状態になる場合は除去に該当しない。

会計処理

資産除去債務の負債計上
4.資産除去債務は、有形固定資産の取得、建設、開発又は通常の使用によって発生した時に負債として計上する。
資産除去債務の算定
6.資産除去債務はそれが発生したときに、有形固定資産の除去に要する割引前の将来キャッシュ・フローを見積り、割引後の金額(割引価値)で算定する。
(1)割引前の将来キャッシュ・フローは、合理的で説明可能な仮定及び予測に基づく自己の支出見積りによる。その見積金額は、生起する可能性の最も高い単一の金額又は生起し得る複数の将来キャッシュ・フローをそれぞれの発生確率で加重平均した金額とする。将来キャッシュ・フローには、有形固定資産の除去に係る作業のために直接要する支出のほか、処分に至るまでの支出(例えば、保管や管理のための支出)も含める。
(2)割引率は、貨幣の時間価値を反映した無リスクの税引前の利率とする。
資産除去債務に対応する除去費用の資産計上と費用配分
7.資産所債務に対応する除去費用は、資産除去債務を負債として計上した時に、当該負債の計上額と同額を、関連する有形固定資産の帳簿価額に加える。
資産計上された資産除去債務に対応する除去費用は、減価償却を通じて、当該有形固定資産の残存耐用年数にわたり、各期に費用配分する。
(資産除去債務が使用の都度発生する場合の費用配分の方法)
8.資産除去債務が有形固定資産の稼動等に従って、使用の都度発生する場合には、資産除去債務に対応する除去費用を活気においてそれぞれ資産計上し、関連する有形固定資産の残存耐用年数にわたり、各期に費用配分する。
なお、この場合には、上記の処理のほか、除去費用をいったん資産に計上し、当該計上時期と同一の期間に、資産計上額と同一の金額を費用処理することもできる。
(時の経過による資産除去債務の調整額の処理)
9.時の経過による資産除去債務の調整額は、その発生時の費用として処理する。当該調整額は、期首の負債の帳簿価額に当初負債計上時の割引率を乗じて算定する。

開示

(貸借対照表上の表示)
12.資産除去債務は、貸借対照表日1年以内にその履行が見込まれる場合を除き、固定負債の区分に資産除去債務等の適切な科目名で表示する。貸借対照表日1年以内に資産除去債務の履行が見込まれる場合には、流動負債の区分に表示する。
(損益計算書上の表示)
13.資産計上された資産除去債務に対応する除去費用に係る費用配分額は、損益計算書上、当該資産除去債務に関連する有形固定資産の減価償却費と同じ区分に含めて計上する。
14.時の経過による資産除去債務の調整額は、損益計算書上、当該資産除去債務に関連する有形固定資産の減価償却費と同じ区分に含めて計上する。
15.資産除去債務の履行時に認識される資産除去債務残高と資産除去債務の決済のために実際に支払われた額との差額は、損益計算書上、原則として、当該資産除去債務に対応する除去費用に係る費用配分額と同じ区分に含めて計上する。

結論の背景

資産除去債務の負債計上
(現行の会計基準における取扱い)
31.我が国においては、「企業会計原則と関係諸法令との調整に関する連続意見書」(昭和35年6月大蔵省企業会計審議会)」第三「有形固定資産の減価償却について」にあるとおり、有形固定資産の耐用年数到来時に、解体、撤去、処分等のために費用を要するときには、その残存価額に反映させることとされている。ただし、有形固定資産の減価償却はこれまで取得原価の範囲内で行われてきたこともあり、残存価額がマイナス(負の値)になるような処理は想定されず、実際に適用されてきてはいなかったと考えられる。また、当該費用の発生が当該残存価額の設定にあたって予見できなかった機能的原因等により著しく不合理になったことなどから残存価額を修正することとなった場合には、臨時消却として処理されることも考えられるが、残存価額をマイナスにしてこのような会計処理を行うこともなかったと考えられる。
さらに、有形固定資産の取得後、当該有形固定資産の除去に係る費用が企業会計原則注解(注18)を満たす場合には、当期の負担に属する金額を当期の費用又は損失として引当金に繰り入れることとなる。しかし、このような引当金処理は、計上する必要があるかどうかの判断基準や、将来において発生する金額の合理的な見積方法が必ずしも明確ではなかったことなどから、これまで広くは行われてこなかったのではないかと考えられる。
(資産除去債務の会計処理の考え方)
32.有形固定資産の耐用年数到来時に解体、撤去、処分等のために費用を要する場合、有形固定資産の除去に係る用役(除去サービス)の費消を、当該有形固定資産の使用に応じて各期間に費用配分し、それに対応する金額を負債として認識する考え方がある。このような考え方に基づく会計処理(引当金処理)は、資産の保守のような用役を費消する取引についての従来の会計処理(引当金処理)は、資産の保守のような用役を費消する取引についての従来の会計処理から考えた場合に採用される処理である。こうした考え方に従うならば、有形固定資産の除去などの将来に履行される用役について、その支払いも将来において履行される場合、当該債務は通常、双務未履行であることから、認識されることはない。
しかし、法律上の義務に基づく場合など、資産除去債務に該当する場合には、有形固定資産の除去サービスに係る支払いが不可避的に生じることに変わりはないため、たとえその支払いが後日であっても、債務として負担している金額が合理的に見積られることを条件に、資産除去債務の全額を負債として計上し、同額を有形固定資産の取得原価に反映させる処理(資産負債の両建処理)を行うことが考えられる。
33.引当金処理に関しては、有形固定資産に対応する除去費用が、当該有形固定資産の使用に応じて各期に適切な形で費用配分されるという点では、資産負債の両建処理と同様であり、また、資産負債の両建処理の場合に計上される借方項目が資産としての性格を有しているのかどうかという指摘も考慮すると、引当金処理を採用した上で、資産除去債務の金額等を注記情報として開示することが適切ではないかという意見もある。
34.しかしながら、引当金処理の場合には、有形固定資産の除去に必要な金額が貸借対照表に計上されないことから、資産除去債務の負債計上が不十分であるという意見がある。また、資産負債の両建処理は、有形固定資産の取得等に付随して不可避的に生じる除去サービスの債務を負債として計上するとともに、対応する除去費用をその取得原価に含めることで、当該有形固定資産への投資について回収すべき額を引き上げることを意味する。この結果、有形固定資産に対応する除去費用が、減価償却を通じて、当該有形固定資産の使用に応じて各期に費用配分されるため、資産負債の両建処理は引当金処理を包摂するものといえる。さらに、このような考え方に基づく処理は、国際的な会計基準とのコンバージェンスにも資するものであるため、本会計基準では、資産負債の両建処理を求めることとした(第7項参照)。