金融商品に関する会計基準(企業会計基準10号)

会計基準

Ⅱ.金融資産及び金融負債の範囲等
1.金融資産及び金融負債の範囲
4.金融資産とは、現金預金、受取手形、売掛金及び貸付金等の金銭債権、株式その他の出資証券及び公社債等の有価証券並びに先物取引、先渡取引、オプション取引、スワップ取引及びこれらに類似する取引(以下「デリバティブ取引」という。)により生じる正味の債券当をいう。
5.金融負債とは、支払手形、買掛金、借入金及び社債等の金銭債務並びにデリバティブ取引により生じる正味の債務等をいう
Ⅲ.金融資産及び金融負債の発生及び消滅の認識
1.金融資産及び金融負債の発生の認識
7.金融資産の契約上の権利又は金融負債の契約上の義務を生じさせる契約を締結したときは、原則として、当該金融資産又は金融負債の発生を認識しなければならない。
2.金融資産及び金融負債の消滅の認識
(1)金融資産の消滅の認識要件
8.金融資産の契約上の権利を行使したとき、権利を喪失したとき又は権利に対する支配が他に移転したときは、当該金融資産の消滅を認識しなければならない。
9.金融資産の契約上の権利に対する支配が他に移転するのは、次の要件がすべて充たされた場合とする。
(1)譲渡された金融資産に対する譲受人の契約上の権利が譲渡人及びその債権者から法的に保全されていること
(2)譲受人が譲渡された金融資産の契約上の権利を直接又は間接に通常の方法で享受できること
(3)譲渡人が譲渡した金融資産を当該金融資産の満期日前に買戻す権利及び義務を実質的に有していないこと
(2)金融負債の消滅の認識要件
10.金融負債の契約上の義務を履行したとき、義務が消滅したとき又は第一次債務者の地位から免責されたときは、当該金融負債の消滅を認識しなければならない。
Ⅳ.金融資産及び金融負債の貸借対照表価額等
1.債券
14.受取手形、売掛金、貸付金その他の債権の貸借対照表価額は、取得原価から貸倒見積高に基づいて算定された貸倒引当金を控除した金額とする。ただし、債権を金銭金額より低い価額又は高い価額で取得した場合において、取得価額と再献金額との差額の性質が金利の調整と認められるときは、償却原価法に基づいて算定された価額から貸倒見積高に基づいて算定された貸倒引当金を控除した金額としなければならない。
2.有価証券
(1)売買有価証券
15.時価の変動により利益を得ることを目的として保有する有価証券(以下「売買目的有価証券」という。)は、時価をもって貸借対照表価額とし、評価差額は当期の損益として処理する。
(2)満期保有目的の債権
16.満期まで所有する意図をもって保有する社債その他の債券(以下「満期保有目的の債券」という。)は取得原価をもって貸借対照表価額とする。ただし、債券を債券金額より低い価額又は高い価額で取得した場合において、取得原価と債券金額との差額の性格が金利の調整と認められるときは、償却原価法に基づいて算定された価額をもって貸借対照表価額としなければならない。
(3)子会社株式及び関連会社株式
17.子会社株式及び関連会社株式は、取得原価をもって貸借対照表価額とする。
(4)その他有価証券
18.売買目的有価証券、満期保有目的の債券、子会社株式及び関連会社株式以外の有価証券(以下「その他有価証券」という。)は、時価をもって貸借対照表価額とし、評価差額は洗い替え方式に基づき、次のいずれかの方法により処理する。
(1)評価差額の合計額を純資産の部に計上する。
(2)時価が取得原価を上回る銘柄に係る評価差額は純資産の部に計上し、時価が取得原価を下回る銘柄に係る評価差額は当期の損失として処理する。
なお、純資産の部に計上されるその他有価証券の評価差額については、税効果会計を適用しなければならない。
(5)時価を把握することが極めて困難と認められる有価証券
19.時価を把握することが極めて困難と認められる有価証券の貸借対照表価額は、それぞれ次の方法による。
(1)社債その他の債券の貸借対照表価額は、債権の貸借対照表価額に準ずる。
(2)社債その他の債券以外の有価証券は、取得原価をもって貸借対照表価額とする
(6)時価が著しく下落した場合
20.満期保有目的の債券、子会社株式及び関連会社株式並びにその他有価証券のうち、時価を把握することが極めて困難と認められる金融商品以外のものについて時価が著しく下落したときは、回復する見込があると認められる場合を除き、時価を持って貸借対照表価額とし、評価差額は当期の損失として処理しなければならない。
21.時価を把握することが極めて困難と認められる株式については、発行会社の財政状態の悪化により実質価額が著しく低下したときは、相当の減額をなし、評価差額は当期の損失として処理しなければならない。
22.第20項及び第21項の場合には、当該時価及び実質価額を翌期首の取得原価とする。
(7)有価証券の表示区分
23.売買目的有価証券及び一年以内に満期の到来する社債その他の債券は流動資産に属するものとし、それ以外の有価証券は投資その他の資産に属するものとする。
3.運用を目的とする金銭の信託
24.運用を目的とする金銭の信託(合同運用を除く。)は、当該信託財産の構成物である金融資産及ぶ金融負債について、本会計基準により付されるべき評価額を合計した額をもって貸借対照表価額とし、評価差額は当期の損益として処理する。
4.デリバティブ取引により生じる正味の債権及び債務
25.デリバティブ取引により生じる正味の債権及び債務は、時価をもって貸借対照表価額とし、評価差額は、原則として、当期の損益として処理する。
5.金銭債務
26.支払手形、買掛金、借入金、社債その他の債務は、債務額をもって貸借対照表価額とする。ただし、社債を社債金額よりも低い価額又は高い価額で発行した場合など、収入に基づく金額と債務額とが異なる場合には、償却原価法に基づいて算定された価額をもって、貸借対照表価額としなければならない。
Ⅴ.貸倒見積高の算定
1.債権の区分
27.貸倒見積高の算定にあたっては、債務者の財政状態及び経営成績等に応じて、債権を次のように区分する
(1)経営状態に重大な問題が生じていない債務者に対する債権(以下「一般債権」という。)
(2)経営破綻の状態には至っていないが、債務の弁済に重大な問題が生じているか又は生じる可能性の高い債務者に対する債権(以下「貸倒懸念債権」という。)
(3)経営破綻又は実質的に経営破綻に陥っている債務者に対する債務者に対する債権(以下「破産更生債権等」という。)
2.貸倒見積高の算定方法
28.債権の貸倒見積高は、その区分に応じてそれぞれ次の方法により算定する
(1)一般債権については、債権全体又は同種・同類の債権ごとに、債権の状況に応じて過去の貸倒実績率等合理的な基準により貸倒見積高を算定する。
(2)貸倒懸念債権については、債権の状況に応じて、次のいずれかの方法により貸倒見積高を算定する。ただし、同一の債権については、債務者の財政状態及び経営成績の状況等が変化しない限り、同一の方法を継続して適用する。
①債権額から担保の処分見込額及び保証による回収見込額を減額し、その残額について債務者の財政状態及び経営成績を考慮して貸倒見積高を算定する方法
②債権の元本の回収及び利息の受け取りに係るキャッシュ・フローを合理的に見積ることができる債権については、債権の元本及び利息について元本の回収及び利息の受取りが見込まれるときから当期末までの期間にわたり当初の約定利子率で割り引いた金額の総額と債権の帳簿価額との差額を貸倒見積高とする方法
(3)破産更生債権等については、債権額から担保の処分見込額及び保証のよる回収見込額を減額し、その残額を貸倒見積高とする。
Ⅵ.ヘッジ会計
1.ヘッジ会計の意義
29.ヘッジ会計とは、ヘッジ取引のうち、一定の要件を充たすものについて、ヘッジ対象に係る曽根木とヘッジ手段に係る損益を同一の会計期間に認識しヘッジの効果を会計に反映させるための特殊な会計処理をいう。
2.ヘッジ対象
30.ヘッジ会計が適用されるヘッジ対象は、相場変動等による損失の可能性がある資産又は負債で、当該資産又は負債に係る相場変動等が評価に反映されていないもの、相場変動等が評価に反映されているが評価差額が損益として処理されてないもの若しくは当該資産又は負債に係るキャッシュ・フローが固定されその変動が回避されるものである。なお、ヘッジ対象には、予定取引により発生が見込まれる資産又は負債も含まれる。
3.ヘッジ会計の要件
31.ヘッジ取引にヘッジ会計が適用されるのは、次の要件がすべて充たされた場合とする。
(1)ヘッジ取引等において、ヘッジ取引が企業のリスク管理方針に従ったものであることが、次のいずれかによって客観的に認められること
①当該取引が企業のリスク管理方針に従ったものであることが、文書により確認できること
②企業のリスク管理方針に関して明確な内部規定及び内部統制組織が存在し、当該取引がこれに従って処理されることが期待されること
(2)ヘッジ取引以後において、ヘッジ対象とヘッジ手段の損益が高い程度で相殺される状態が引き続き認められることによって、ヘッジ手段の効果が定期的に確認されること。
4.ヘッジ会計の方法
(1)ヘッジ取引に係る損益認識時点
32.ヘッジ会計は、原則として、時価評価されているヘッジ手段に係る損益又は評価差額を、ヘッジ対象に係る損益が認識されるまで純資産の部において繰り延べる方法による。
ただし、ヘッジ対象である資産又は負債に係る相場変動等を損益に反映させることにより、その損益とヘッジ手段に係る損益とを同一の会計期間に認識することもできる。
なお、純資産の部に計上されるヘッジ手段に係る損益又は評価差額については、税効果会計を適用しなければならない。
(2)ヘッジ会計の要件が充たされなくなったときの会計処理
33.ヘッジ会計の要件が充たされなくなったときには、ヘッジ会計の要件が充たされていた間のヘッジ手段に係る損益又は評価差額は、ヘッジ対象に係る損益が認識されるまで引き続き繰べる。
ただし、繰り延べられたヘッジ手段に係る損益又は評価差額について、ヘッジ対象に係る含み益が減少することによりヘッジ会計の終了時点で重要な損失が生じるおそれがあるときは、当該損失部分を見積り、当期の損失として処理しなければならない。
(3)ヘッジ会計の終了
34.ヘッジ会計は、ヘッジ対象が消滅したときに終了し、繰り延べられているヘッジ手段に係る損益又は評価差額は当期の損益として処理しなければならない。また、ヘッジ対象である予定取引が実行されないことが明らかになったときにおいても同様に処理する。

   

結論の背景

Ⅲ.金融資産及び金融負債の評価基準に関する基本的考え方
64.金融資産については、一般的には、市場が存在すること等により客観的な価額として時価を把握できるとともに、当該化額により換金・決済等を行うことが可能である。
このような金融資産については、次のように考えられる。
(1)金融資産の多様化、価格変動リスクの増大、取引の国際化等の状況の下で、投資者が自己責任に基づいて投資判断を行うために、金融資産の時価評価を導入して企業の財務諸表に反映させ、投資者に対して的確な財務諸表を提供することが必要である。
(2)金融資産に係る取引の実態を反映させる会計処理は、企業の側においても、取引内容の十分な把握とリスク管理の徹底及び財務諸表の成果の的確な把握のために必要である。
(3)我が国企業の国際的な事業活動の進展、国際市場での資金調達及び海外投資者の我が国証券市場での投資の活発化という状況の下で、財務諸表等の企業情報は、国際的観点からの同質性や比較可能性が強く求められている。また、デリバティブ取引等の金融取引の国際的レベルでの活性化促すためにも、金融商品に係る我が国の会計基準の国際的調和化が重要な課題となっている。
67.一方、金融負債は、借入金のように一般的には市場がないか、社債のように市場があっても、自己の発行した社債を時価により自由に清算するには事業遂行上の制約があると考えられることから、デリバティブ取引により生じる正味の債務を除き、債務額(ただし、社債を社債金額よりも低い価額又は高い価額で発行した場合など、収入に基づく金額と債務額とが異なる場合には、償却原価法に基づいて算定された価額)をもって貸借対照表価額とし、時価評価の対象としないことが適当であると考えられる。
Ⅳ.金融資産及び金融負債の貸借対照表価額等
2.有価証券
(4)その他有価証券
基本的捉え方
75.子会社株式や関連会社株式といった明確な性格を有する株式以外の有価証券であって、売買目的又は満期保有目的といった保有目的が明確に認められていない有価証券は、業務上の関係を有する企業の株式等から市場動向によっては売却を想定している有価証券まで多様な性格を有しており、一義的にその属性を定めることは困難と考えられる。このような売買目的有価証券、満期保有目的の債券、子会社株式及び関連会社株式のいずれにも分類できない有価証券(その他有価証券)については、個々の保有目的等に応じてその性格付けをさらに細分化してそれぞれの会計処理を定める方法も考えられる。しかしながら、その多様な性格に鑑み保有目的等を識別・細分化する客観的な基準を設けることが困難であるとともに、保有目的等自体も多義的であり、かつ、変遷していく面があること等から、売買目的有価証券と子会社株式及び関連会社株式との中間的な性格を有するものとして一括して捉えることが適当である。
時価評価の必要性
76.その他有価証券については、前述の評価基準に関する基本的考え方に基づき、時価をもって貸借対照表価額とすることとした(第18項参照)。ただし、第75項に述べたように、その他有価証券は直ちに売却することを目的としているものではないことに鑑みると、その他有価証券に付すべき時価に市場における短期的な価格変動を反映させることは必ずしも求められないと考えられることから、期末前1か月の市場価格の平均に基づいて算定された価額をもって期末の時価とする方法を継続して適用することも認められると考えられる。
評価差額の取り扱い
(評価差額の取扱いに関する基本的考え方)
77.その他有価証券の時価は投資者にとって有用な投資情報であるが、その他有価証券については、事業遂行上等の必要性から直ちに売買・換金を行うことには制約を伴う要素もあり、評価差額を直ちに当期の損益として処理することは適切ではないと考えられる。
78.また、国際的な動向を見ても、その他有価証券に類するものの評価差額については、当期の損益として処理することなく、資産と負債の差額である「純資産の部」に直接計上する方法や包括利益を通じて「純資産の部」に計上する方法が採用されている。
79.これらの点を考慮して、本会計基準においては、原則として、その他有価証券の評価差額を当期の損益として処理することなく、税効果を調整の上、純資産の部に記載する考え方を採用した(第18項参照)。なお、評価差額については、毎期末の時価と取得原価との比較により算定することとした。したがって、期中に売却した場合には、取得原価と売却価額との差額が売買損益として当期の損益に含まれることになる。
(評価差額の一部の損益計算書への形状)
80.その他有価証券のうち時価評価を行ったものの評価差額は、前述の考え方に基づき、当期の損益として処理されないこととなる。他方、企業会計上、保守主義の観点から、これまで低価法に基づく銘柄別の評価差額の損益計算書への計上が認められてきた。このような考え方を考慮し、時価が取得原価を上回る銘柄の評価差額は純資産の部に計上し、時価が取得原価を下回る銘柄の評価差額は損益計算書に計上する方法によることもできることとした(第18項(2)参照)。この方法を適用した場合における損益計算書に計上する損失の計上方法については、その他有価証券の評価差額は毎期末の時価と取得原価との比較により算定することとの整合性から、洗い替え方式によることとした。