3.本会計基準は、すべての企業における棚卸資産の評価方法、評価基準及び開示について適用する。棚卸資産は、商品、製品、半製品、原材料、仕掛品等の資産であり、企業がその営業目的を達成するために所有し、かつ、売却を予定する資産のほか、売却を予定しない資産であっても、販売活動及び一般管理活動において短期間に消費される事務用消耗品等も含まれる。
なお、売却には、通常の販売のほか、活発な市場が存在することを前提として、棚卸資産の保有者が単に市場価格の変動により利益を得ることを目的とするトレーディングを含む。
4.「時価」とは、公正な評価額をいい、市場価格に基づく価額をいう。市場価格が観察できない場合には合理的に算定された価額を公正な評価額とする。
5.「正味売却価額」とは、売価(購買市場と売却市場とが区別される場合における売却市場の時価)から見積追加製造原価及び見積販売直接経費を控除したものをいう。なお、「購買市場」とは当該資産を購入する場合に企業が参加する市場をいい、「売却市場」とは当該資産を売却する場合に企業が参加する市場をいう。
6.「再調達原価」とは、購買市場と売却市場とが区別される場合における購買市場の時価に、購入に付随する費用を加算したものをいう。
棚卸資産の評価方法
6-2.棚卸資産については、原則として購入代価又は製造原価に引取費用等の付随費用を加算して取得原価とし、次の評価方法の中から選択した方法を適用して売上原価等の払出原価と期末棚卸資産の価額を算定するものとする。
(1)個別法
取得原価の異なる棚卸資産を区別して記録し、その個々の実際原価によって期末棚卸資産の価額を算定する方法
個別法は、個別性が強い棚卸資産の評価に適した方法である。
(2)先入先出法
最も古く取得されたものから順次払出しが行われ、期末棚卸資産は最も新しく取得されたものからなるとみなして期末棚卸資産の価額を算定する方法
(3)平均原価法
取得した棚卸資産の平均原価を算出し、この平均原価によって期末棚卸資産の価額を算定する方法
なお、平均原価は、総平均法又は移動平均法によって算出する。
(4)売価還元法
値入率等の類似性に基づく棚卸資産のグループごとの期末の売価合計額に、原価率を乗じて求めた金額を期末棚卸資産の価額とする方法
売価還元法は、取扱品種の極めて多い小売業等の業種における棚卸資産の評価に適用される。
6-3.棚卸資産の評価方法は、事業の種類、棚卸資産の種類、その性質及びその使用方法等を考慮した区分ごとに選択し、継続して適用しなければならない。
7.通常の販売目的(販売するための製造目的を含む。)で保有する棚卸資産は、取得原価をもって貸借対照表価額とし、期末における正味売却価額が取得原価よりも下落している場合には、当該正味売却価額をもって貸借対照表価額とする。この場合において、取得原価と当該正味売却価額との差額は当期の費用として処理する。
8.売却市場において市場価格が観察できないときには、合理的に算定された価額を売価とする。これには、期末前後での販売実績に基づく価額を用いる場合や、契約により取り決められた一定の売価を用いる場合を含む。
9.営業循環過程から外れた滞留又は処分見込等の棚卸資産について、合理的に算定された価額によることが困難な場合には、正味売却価額まで切り下げる方法に代えて、その状況に応じ、次のような方法により収益性の低下の事実を適切に反映するように処理する。
(1)帳簿価額を処分見込価額(ゼロ又は備忘価額を含む。)まで切り下げる方法
(2)一定の回転期間を超える場合、規則的に帳簿価額を切り下げる方法
10.製造業における原材料等のように再調達原価の方が把握しやすく、正味売却価額が当該再調達原価に歩調を合わせて動くと想定される場合には、継続して適用することを条件として、再調達原価(最終仕入れ原価を含む。以下同じ。)によることができる。
11.企業が複数の売却市場に参加し得る場合には、実際に販売できると見込まれる売価を用いる。また、複数の売却市場が存在し売価が異なる場合であって、棚卸資産をそれぞれの市場向けに区分できないときには、それぞれの市場の販売比率に基づいた加重平均売価等による。
12.収益性の低下の有無に係る判断および簿価の切下げは、原則として個別品目ごとに行う。ただし、複数の棚卸資産を一括りとした単位で行うことが適切と判断されるときには、継続して適用することを条件として、その方法による。
13.売価還元法を採用している場合においても、期末における正味売却価額が帳簿価額よりも下落している場合には、当該正味売却価額をもって貸借対照表価額とする。
ただし、値下額等が売価合計額に適切に反映されている場合には、次に示す値下額及び値下取消額を除外した売価還元法の原価率により求められた期末棚卸資産の帳簿価額は、収益性の低下に基づく簿価切下額を反映したものとみなすことができる
【値下げ額及び値下取消額を除外した売価還元法の原価率】
(「企業会計原則と関係諸法令との調整に関する連続意見書第四棚卸資産の評価について」(以下「連続意見書第四」という。)に定める売価還元低価法の原価率)
期首繰り越し商品原価+当期受入原価総額/期首繰越商品小売価額+当期受入原価総額+原始値入額+値上額-値上取消額
14.前期に計上した簿価切下額の戻入れに関しては、当期に戻入れを行う方法(洗替え法)と行わない方法(切放し法)のいずれかの方法を棚卸資産の種類ごとに選択適用できる。また、売価の下落要因を区分把握できる場合には、物理的劣化や経済的劣化、若しくは市場の需給変化の要因ごとに選択適用できる。この場合、いったん採用した方法は、原則として、継続して適用しなけれなならない。
トレーディング目的で保有する棚卸資産の評価基準
15.トレーディング目的で保有する棚卸資産については、市場価格に基づく価額をもって貸借対照表価額とし、帳簿価額との差額(評価差額)は、当期の損益として処理する。
16.トレーディング目的で保有する棚卸資産として分類するための留意点や保有目的の変更の処理は、企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」(以下「金融商品会計基準」という。)における売買目的有価証券に関する取扱いに準じる。
通常の販売目的で保有する棚卸資産の収益性の低下に係る損益の表示
17.通常の販売目的で保有する棚卸資産について、収益性の低下による簿価切下額(前期に計上した簿価切下額を戻入れる場合には、当該戻入額相殺後の額)は売上原価とするが、棚卸資産の製造に関連し不可避的に発生すると認められるときには製造原価として処理する。また、収益性の低下に基づく簿価切下額が、臨時の事象に起因し、かつ、多額であるときには、特別損失に計上する。臨時の事業とは、例えば次のような事象をいう。なお、この場合には、洗替え法を適用していても(第14項参照)、当該簿価切下額の戻入れを行ってはならない。
(1)重要な事業部門の廃止
(2)災害損失の発生
トレーディング目的で保有する棚卸資産に係る損益の表示
19.トレーディング目的で保有する棚卸資産に係る損益は、原則として、純額で売上高に表示する。